遺留分から考える民事信託②
2017年04月19日 15:06
事例
AさんにはBさんとCさんという二人の子どもがいました。
BさんはAさんと同居し、介護から埋葬まで一切の面倒をみてきました。
Cさんはもの心が付いた頃、気ままに家を出て一切連絡が取れない状態でしたが、初七日を過ぎた頃に、遺産が欲しいと帰って来ました。
Aさんには、家と土地、預貯金合わせて4,000万円相当の財産(預貯金1,000万円・不動産3,000万円)がありました。
このような事例で、「遺留分」という亡霊とどう戦っていくのか。
どんな親不孝者であっても、Cさんには遺留分を主張する権利があります。
一方で財産は個人のものですから、Aさんが自分の財産をどのようにしようとも本来は、Aさんの自由なのです。
AさんがBさんに対して、自分の財産の全てを譲りたいと考えることは、通常の感覚ではないでしょうか。
そこでAさんが遺言書で対策した場合は、次のようなことになります。
①預貯金と不動産をBに相続させる。
②Cさんが遺留分を主張して減殺請求をするならば、預貯金に対して行うこと。
③付言(法的効力なし)として、Bさんに相続させたい理由と想いを連ね、Cさんの遺留分減殺請求を思いとどまらせるように試みる。
というようなことになります。
しかしこのような遺言があれば、「預貯金800万円に対して遺留分減殺請求しても良い」という解釈も成り立ちます。更に不足する200万円について、現金ではなく不動産の共有持ち分を主張する可能性さえあるのです。不動産の共有は、権利を複雑化するだけでなく、維持管理・処分において、大きな障害になることもあります。
では、次に信託でAさんができることをみていきましょう。
①不動産を信託財産とする。
②当初受益者はAさん。二次受益者はBさんとCさん、三次受益者Bさんの子
受益権は発生・消滅型とし、譲渡不可とする。
Bさんの受益権の内容は、不動産の使用。
Cさんの受益権の内容は、不動産の賃貸相場の1/3を受け取る。
家賃相場は3年毎に見直す。
③受託者はBさんとその妻
※別途遺言書を作成し、預貯金はBさんに相続させる。
Cさんの遺留分対策として、3,000万円相当の不動産の受益権を認めます。
家賃相場の1/3を受け取れるようにすることで、Cさんを満足させます。
15万円の家賃相場なら、月額5万円ですから年間60万円です。
Cさんが受益権を得てから30年生き続けたとすると1,800万円を手にする訳ですから、問題ないでしょう。
この1,800万円と遺留分1,000万円を比較すると、素直に1,000万円を渡した方が良さそうにも思えます。
しかし、ポイントは800万円の差にあるのではありません。
ポイントは、Aさんの不動産がCさんの手に渡らないことであり、更にCさんの妻や子に相続されないという点です。
Cさんが30年生きるかどうか不明です。更に家の維持・管理費の1/3をCさんに請求できます。
Cさんが支払わなければ家賃相当額と相殺すれば良いのです。
このように信託は、想いを実現できる素敵なツールとして上手く使いこなせばよいのです。